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大阪高等裁判所 昭和48年(行ス)2号 決定

抗告人

税理士試験委員

右代表者

北島武雄

抗告人税理士試験委員長

北島武雄

抗告人

右代表者法務大臣

田中伊三次

右抗告人ら指定代理人

鎌田泰輝

外二名

相手方

岡平蔵

外六名

主文

原決定を取消す。

本件を東京地方裁判所に移送する。

理由

抗告人は主文と同趣旨の裁判を求め、その理白とするところは別紙記載のとおりである。〈別紙省略〉

(当裁判所の判断)

一本件記録によると、相手方岡平蔵は和歌山市内に、同家間勇吉は箕面市内に、同志水源司は神戸市内に、同谷間寛、同松本茂郎は芦屋市内に、同横井弥一郎は大津市内に、同吉沢恒郎は京都市内にそれぞれ住所を有し、いずれも税理士としてその業務に従事しているものであるが、抗告人らを被告とし大阪地方裁判所に、税理士法附則三〇項に基づく税理士特別試験が同法六条の目的に違反することなどを理由に、(イ)、抗告人税理士試験委員に対しては税理士特別試験を行なつてはならない旨の差止請求(以下第一の請求という)、(ロ)、抗告人税理士試験委員長に対しては同試験実施公告の取消請求(以下第二の請求という)、(ハ)、抗告人国に対しては同試験実施により抗告人らの蒙つた精神的苦痛に対する損害賠償の請求(以下第三の請求という)を併合して本件訴訟を提起したものであり、税理士特別試験は東京都千代田区霞ケ関の国税庁におかれた税理士試験委員によつて実施され、抗告人税理士試験委員、同税理士試験委員長の所在地は東京都千代田区であることが認められる。

二なお、本件において、税理士特別試験の実施に関し、行政事件訴訟法(以下行訴法という)一二条三項にいう「事案の処理にあたつた下級行政機関」に該当するものの存する事実は認められない。

三本件訴訟のうち第一、第二の請求に関する部分は行政訴訟であり、第三の請求に関する部分は通常の民事訴訟であるが、第三の請求と第一、第二の請求とは行訴法一三条一号の関連請求の関係にあるので、同法一七条一項の共同訴訟として併合提起されたものであるところ、第一、第二の請求は同法一二条一項により抗告人税理士試験委員、同税理士試験委員長の所在地の裁判所である東京地方裁判所の管轄に属し、第三の請求は民訴法四条二項により抗告人国の普通裁判籍所在地の裁判所である東京地方裁判所のみでなく、同法五条により義務履行地として相手方家間勇吉の住所地を管轄する大阪地方裁判所にも管轄権のあることが明らかである(相手方らの第三の請求はいずれも損害賠償を請求する財産権上の民事訴訟であり、かつ民訴法五九条の同一の事実上および法律上の原因事実に基づくものであるから、同法二一条の適用により、相手方家間勇吉の第三の請求につき管轄権を有する大阪地方裁判所に、その余の相手方ら全部の第三の請求についても管轄権を生ずることはいうまでもない)。

四ところで行訴法には取消訴訟その他行政事件訴訟と右関連請求訴訟との併合管轄について明文の規定がない。そこで、この点について考えてみる。

(一)、行訴法七条によれば、民事訴訟に関する法規は、行政訴訟に関し当然に適用されるものではないことを前提として、その性質に反しない限り、行訴法に定めのない事項について準用する旨定められているから、第一、第二の請求(行政訴訟)が、民訴法二一条の準用により第三の請求(民事訴訟)について管轄権を有する大阪地方裁判所の管轄に属するものであるか否かについて判断する。

民訴法のもとにおいては、同法二二七条により、訴の併合は、その訴訟手続が同種の民訴手続である場合にのみ許容されているのであるが、行訴法のもとにおいては、同法一三条、一六条ないし一九条により、訴の併合は、その訴訟手続が同種であるか異種であるかにかかわりなく、取消訴訟と、同法一三条一号ないし六号所定の関連がある請求にかかる訴訟とについて、右各証拠の審理の重複ならびに裁判の牴触を避ける目的をもつて、許容されていることが明らかである。(なお以上の行訴法の各規定は、行訴法三八条一、二項、四一条二項、四三条により、取消訴訟以外の行政訴訟についても準用され、関連請求にかかる訴訟との併合は、取消訴訟の場合と、それ以外の行政訴訟の場合とでは、その間に異なつた取扱をなすべき点はなく、全く同一である)。そして、同法一三条では、すでに提起された取消訴訟と関連請求に係る訴訟とが各別の裁判所に係属する場合において、関連請求に係る訴訟は、これを取消訴訟の係属する裁判所に移送しうべきことを認めているのであつて、これはその反面解釈として取消訴訟を関連請求にかかる訴訟の係属する裁判所に移送しうべきことを許容したものとはいえない。また、同法一六条、一八条、一九条では明文を以て取消訴訟に関連請求に係る訴訟を併合しうる旨の規定を設けている。これらの点から考察すると、行訴法のもとにおいては、関連請求訴訟が民事訴訟であると否とに拘らず、それが関連請求であるというだけの要件を具備しておれば、これについて行政訴訟の管轄裁判所にその併合管轄を認めたものと解するを相当とする(民訴法二二七条五九条、二一条は全く準用がない)。そして行訴法では関連請求にかかる訴訟に取消訴訟を併合することは許容されておらず、したがつて、右とは逆に関連請求にかかる訴訟を中心としてその管轄裁判所に取消訴訟の併合管轄を認めた規定はなく、関連請求訴訟が民事訴訟である場合にも、右両訴訟がともに民事訴訟手続のもとで審理さるべきことは法の予定するところではなく、かえつて、取消訴訟を中心としこれに関連請求にかかる訴訟を併合することにより、右両訴訟がともに行政訴訟手続のもとで審理さるべきことが法定されているものとみるのが相当である。行訴法一七条も同様に解すべく、行政訴訟と関連請求との共同訴訟なるが故に右と異なる解釈をなし、これに民訴法二一条の濫用を認め、広く取消訴訟と関連請求訴訟相互間に併合の特別裁判籍を生ずるものと解するのは相当でない。

以上のとおり、行訴法は取消訴訟と関連請求にかかる訴訟とを併合した場合の管轄について明文を設けていないが前記諸規定が前記のとおり解される以上、これに民訴法二一条を準用することは許されないものといわざるをえない。

(二)  そうすると、相手方らは行訴法一七条の共同訴訟に民訴法二一条の準用があることを根拠に本件を大阪地方裁判所に提起したが、以上説示の理由によつて同条の準用は認めがたく、またこのほかに、本件が同裁判所の併合管轄に属すると認められる管轄原因は見当らない。

したがつて、本件第一、二の訴訟は東京地方裁判所の管轄に属し、これと併合提起される以上第三の訴訟についても併合管轄は同裁判所に生じ、結局全体の併合訴訟としては大阪地方裁判所に管轄権がなく、むしろ行訴法一二条一項により抗告人税理士試験委員および同委員長の所在地を管轄する前示東京地方裁判所に管轄権があるものと認めるのが正当である。

よつて、右と異なる原決定を取消して本件全部を東京地方裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(増田幸次郎 西内辰樹 三井喜彦)

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